OJ82CNM2 - 心理的苦痛
第2部 ボーム博士、ヒドレー博士、シェルドレイク博士との対話
カリフォルニア州オーハイ
1982年4月17日
0:05 | 【 心の本質 】 |
0:13 | ~ 第2部 ~ |
0:15 | ~ 心理的苦痛 ~ |
0:23 | これはJ.クリシュナムルティと― その他の人々による一連の対話です これらの議論の目的は 心についての探求です 心理的無秩序とは何か 心の変容に必要なものとは何か |
0:43 | クリシュナムルティ氏は宗教哲学者として この問題に長年携わってきました 米国、英国、インドでは 小中学校を設立しました |
0:57 | デイビッド・ボーム氏は倫理物理学者 英国のロンドン大学の教授です 倫理物理学などに関する本を 多数執筆しています 2人は以前― 様々な対話を行いました |
1:14 | ルパート・シェルドレイク氏は生物学者 彼は最近『形態形成場』という仮説を 本の中で提示しました 現在 インドの国際作物研究所に― 植物生理学者の意見を 求めています |
1:32 | ジョン・ヒドレー氏は精神科医 クリシュナムルティ学校に 過去6年間携わってきました |
1:41 | 第1部では『自我の本質』を取り上げ 苦痛、社会、宗教との関係を議論しました 果たして我々は これらの関係を― 突き止められるか? 安全を欲する心理が問題の原因なのか? 引き続きこれらを議論します |
2:04 | 昨日は 心理的無秩序の― 原因と性質の話をしました 自己中心的な活動の中に心理的無秩序の起源があり― それが分裂と葛藤を生み 攻撃性、支配欲といった生物学的要因や 病、死、すべてが原因の一つとなっています 今朝は手始めに ディビッドから意見を聞きます このような生物学的要因と心理的な安心感の関係について |
2:43 | はい では生物学的に…例えば 動物は― 恐怖、怒り、攻撃性などがすべてで それらは非常に単調で 短い時間しか存続せず― ほとんど痕跡を残さず消え去ります 高等動物には多少記憶が あるかもしれませんが 人にとって記憶は非常に重要で 経験から未来を予想したりします 振る舞いも異なります 例えば 動物なら他の動物と諍いを起こしても― その後しばらくして 平衡状態を取り戻します しかし 人間が二手に分かれて けんかをした場合 それは何百年も続き 何が起きているのか 覚えておくのも大変です それが最大の違いでしょうか |
3:48 | 記憶が… |
3:50 | ええ 記憶の影響力です でも記憶自体は問題を起こしません 単なる事実ですから けど 記憶には影響力があり恐怖を生み出したり 怒りなどの混乱を引き起こすかもしれない 過去の記憶と未来の予測によって |
4:13 | ‐考えることによって?‐ええ 記憶を元にね |
4:18 | 動物も攻撃された経験があれば 怖がるでしょうが― 再び遭遇しない限り考えないでしょう |
4:28 | ええ 大抵の動物は― 他の動物のイメージを 作れないと思います以前 犬が― 激しく喧嘩してるのを見ましたが 終わった途端 忘れてるんです 動揺してるが理由はわかってない もし覚えているなら― いつまでも葛藤するはずです つまり 動物が葛藤する時間は― 限られています しかし人間は違い いつまでも覚えていて 考えることによって引き伸ばそうとします |
5:13 | つまり 動物界に見られる苦痛と 人の苦痛が違うのは 人があれこれ考え 気に病むからだと そう言っているのですか? |
5:27 | ええ 例えば動物にも 伴侶を亡くしたシカが恋焦がれて 死んだ話がありますが限度があると思います 動物も苦しみますが 人間は無制限に引き伸ばします つまり 人間の場合― 途方もない爆発のように あることが心全体を占め それが人生の動機となって 屈辱を思い出し復讐しようとします 何代にもわたって ある人との苦い経験を 思い出して次に何が起きるか脅えるんです 試験に脅える子供のように |
6:20 | それで彼への回答は? |
6:22 | と言うと? |
6:24 | 病気、死、本能的衝動といった生物学的事実が― どのように心理的問題や無秩序をもたらすのか? |
6:35 | あれこれ考えることによってです長い目で見れば― 生物学的事実は重要な問題ではありません しかし考えるや否や― あれこれ考えるだけでなく それに沿ってイメージを作り記憶をよみがえらせ 未来の感触を予測し そして深刻な問題になります はまり込むからです それでは安心は手に入りませんが 探さずにはいられない 考えることの目的は安心です 日常の安心、技術的な安全のためです ですからこのように考えるのです “再び苦しまないためには一体どうしたらいいのか?” しかし それは無理な話で 対策はあっても 考えるにつれて全機能をかき乱し始め― 全精神機能を歪めます |
7:48 | 確かに 私たちは― 考えることによって感情などをかき乱しますが まさか考えない方がいいと言っているのでは― ありませんよね? |
8:03 | 考え方 次第です 我々が このような考え方をするのは 安心感、安全のイメージを得るためです |
8:15 | 子供の頃 ケガをしたんですが― それが恐怖心を生み予測するようになりました その事故を覚えてなくとも 今後は避けたいんです |
8:29 | つまり心は常に避け方を探していて 思いつきやイメージを探し出し― “アイツがやったんだ”と 彼を避ける結論に達します 安心のイメージを与えてくれるなら どんな結論にもしがみつきます 何の根拠もなしに |
8:53 | もう少し詳しく |
8:56 | そうですね…誰かが原因で嫌な経験をした場合― “彼を二度と信じない”という結論に 達するかもしれません 安心を得ることに躍起になっていて 信じるべきではないと早合点するのです 違いますか? |
9:19 | しかし あなたを大事にしてくれる人なら 完全に信じられると 早合点するかもしれません 心は探しているのです 心地よい考え方を なぜなら記憶にある感情が― 心地よさを最優先する全機能を ひどく妨害するからです |
9:45 | つまり この時点で関心があるのは 真実よりも安心だと? |
9:51 | ええ 平安を邪魔されるので 間違った方法を導入したんです |
9:58 | 間違った方法? |
10:00 | 気休めな考えを 見つけることです |
10:04 | つまり 思考そのものがある意味で― 現実に取って代わってしまっていると? 気休めを得るために? |
10:16 | はい つまり自己欺瞞です |
10:24 | なぜ一次的欲求が安心だと? |
10:28 | それが唯一の一次的欲求かわかりませんが 明らかに 動物にとっては― 安全は重要な欲求でしょう? また快楽もその一つで 大いに関係してます |
10:47 | 問題の要点を『安心』に絞りましょう 確かにそれは目標の一つで 人は家や車を確保したいと思います 財産、銀行の残高などを しかし手に入れるとある要因が生じます 一つは失うことへの恐れ もう一つは退屈です 興奮やスリルに対する… そして この場合安心が一次的欲求とは 思えません |
11:19 | ですから欲求の一つに過ぎません 例えば あなたの話には 快楽の欲求も含まれてます |
11:29 | どうでしょう… |
11:30 | 興奮は快感ですし 苦痛よりも快楽や興奮を望むでしょう |
11:37 | しかし好奇心にも快楽があり 発見にともなう解放感は 単純な快楽でも 反復的な快楽でも 安心感でもありません |
11:50 | 我々のあらゆる欲求が― 安心に関与しているとは言ってません 私が言っているのは 全く別なことです 例えば 自然で自由な好奇心は― 楽しいことでこの欲求に問題はありません しかし それに依存して あれこれ思い悩むなら それは問題になります |
12:17 | それにしても安心とは何なのでしょうか? 何を意味するのか? 物理的な安全以外に |
12:34 | 傷つかないことでは? |
12:38 | 傷つかないこと… |
12:40 | 全く傷つけられないことです |
12:43 | 傷つけられないし 傷つけないこと 我々は皆 肉体的に傷つきます 手術、病気などによって あなたが言うのは 心理的な傷のことですか? |
13:05 | はい 疑問があるのですが… 来院する患者は― 心理的な痛みを訴えます |
13:18 | それにどう対処されますか? |
13:21 | 例えば 子供の頃の傷に |
13:24 | ‐ええ…‐私は傷ついてます 両親によって学校、カレッジ、大学での出来事によって |
13:34 | ええ |
13:36 | 結婚した妻によって 人生の全過程がまるで痛みの連続のようです |
13:44 | 自己を成立すること、現実を認識することが まるで苦痛のように見えます |
13:52 | ええ それでどう対処を? |
14:03 | 自分のことを自覚させます |
14:07 | と言いますと? |
14:09 | 例えば 自分の中で作り上げてきた観念があるでしょう “私は劣っている”とか― “私は被害者だ”とか そうして 世界を加害者だと 見なしているわけです 私は それを自覚させます |
14:35 | しかし それで心の痛みを取り除くことが? 私は無意識の奥深くに傷を負っていて― それが私を妙な行動に走らせ 神経症にし 孤立させます |
14:58 | ええ しかし自覚することで― 人々は回復しているようですし ある程度は効いてるようです |
15:11 | でも このように思いませんか? “傷つけられないことは可能か?” |
15:23 | 思います |
15:24 | それは誰か他の人を? それとも己の気持ちを? |
15:29 | 私は不本意に人を傷つけることはあるかもしれませんが 故意には傷つけません |
15:37 | ええ そんな気はない |
15:39 | はい ありません |
15:42 | そうかもしれませんが 他人を傷つけないことと― 傷つけられないことに関連が? 傷つけられない最善の方法は― 傷つける側になることです これが核報復の原理であり 一般的な原則です |
16:04 | ええ 確かに |
16:06 | 故に 傷つけないことと 傷つけられないことの 関連性がわかりません 大抵 傷つける側に回って 安全を得ようとします |
16:18 | 確かに 王であれサニヤシであれ 己の周りに壁を築いた者であれば― |
16:25 | ええ |
16:26 | 傷つけられません |
16:28 | ええ |
16:30 | でも子供の頃に傷つき― |
16:32 | ええ |
16:34 | その傷は残ります表面的に残るかもしれないし 心の奥に残るかもしれない さて 心理療法士としてどのように他を救いますか? 彼らは深く傷ついていて 無知で― まったく傷つかない術を探しています |
16:59 | その問題には取り組みません あり得ません |
17:04 | なぜですか? 合理的な質問だと思いませんか? |
17:12 | 今あがっている質問は 問題の核心となる部分です あなたの質問は心理療法というより もっと広いものです “完全に終止符を打てるのか?” “特定の心の痛みだけでなく” |
17:32 | では どう進めましょう? |
17:35 | 痛みが起こる仕組みを突き止めましょう そもそも なぜ傷つくのか 最初の段階で |
17:46 | その答えは非常に簡単です 気に障ることを言われるからです |
17:57 | なぜ気に障るんです? |
18:00 | 例えば 自分を偉大だと思っていて― なのに“まぬけ”と言われれば傷つきます |
18:10 | 何が傷つくのでしょう? |
18:13 | 自己イメージです “私は最高の料理人だ” “偉大な科学者、最高の大工”何であれ― 私には自己イメージがあり それに水を差されるから― 傷つくのです イメージが傷つくのですイメージは私です |
18:37 | 多くの人は理解できないでしょう なぜ私がイメージなんです? イメージが傷つくとは? 存在しないものが傷つくのですか? |
18:49 | イメージに多くの感情を注いできたからです |
18:53 | ええ… |
18:55 | 多くの観念、気持ち、反応を… それが私、イメージなのです |
19:03 | イメージに見えません 現実みたいです |
19:08 | 大抵の人にとっては非常にリアルで― |
19:12 | ええ |
19:13 | そのイメージという現実が私なのです |
19:17 | ええ そのイメージは現実ですか? |
19:24 | イメージや象徴は現実ではありません |
19:28 | 私は象徴に過ぎない? |
19:31 | ‐恐らく…‐思い切りましたね |
19:43 | 疑問が生じたのですが イメージを持たずにいれるでしょうか? |
19:54 | 待ってください先程の話が― まだ終わっていません |
20:00 | では それを論じましょう |
20:03 | 確かに 自分のことを― 考えているときなど ある程度はイメージでしょうが それが理に適っているかはわかりません イメージは誇張されたり 非現実だったりするかもしれません しかし こういった部分を 取り除いて妥当な大きさにすれば 残ったものが本物では? |
20:33 | “己とは何か”と聞いているんですか? |
20:37 | そうだと思います |
20:39 | 簡単に言えば あなたとは何か我々一人一人が 人間とは何なのか 不可欠な質問です |
20:51 | はい 避けれない質問です |
20:53 | で 『私』とは何でしょう? 私には物理的な形があり名前があります ‐私はあらゆる教育の結果です‐経験も… |
21:09 | 私の経験、私の信仰― 私の理想、信条― 私に傷を残した出来事… |
21:22 | 築いてきたことの結果です |
21:24 | あなたが得た技能 |
21:26 | 私の恐怖、私の活動― いわゆる愛情と呼ばれるもの、私の神― 私の国、私の言葉― 恐怖、快楽、苦痛―すべてが私です |
21:43 | はい |
21:45 | 私の意識なのです |
21:48 | ‐あなたの無意識も…‐それが私の全内容なのです |
21:53 | なるほど |
21:56 | それでもやはり自分がいる感覚があります 反対されるでしょうが 何かが起こっているとき― 実際にそれがあると感じます |
22:11 | どういうことです? |
22:15 | 傷ついたり怒ったりするとき イメージ以上のものを感じるんです 心の奥深くが傷つけられたような… |
22:29 | よくわかりませんが イメージはそのような… それは私のイメージなのです |
22:45 | ええ しかし… |
22:47 | 自己イメージがあるとします “私は偉大な詩人だ、大工だ” “最高の作家だ” それ以外にも― 他のイメージがあります 妻に対するイメージ 妻の私に対するイメージ 周りには多くのイメージがあります 自分に対するイメージに加えて つまりイメージの束を蓄積しているのかも… |
23:25 | ええ つまり― あるのはイメージだけだと |
23:30 | ‐その通り‐しかし― 事実はあるんですか? |
23:34 | 待ってください 事実もあります 例えば いま私は― 座って皆を見ていますいま私には― 中心がある感覚があり それは肉体と関連しています それには中心があり 私以外の誰でもありません そして活動の中心である肉体と関係があるのは 多くの記憶と経験です 話したり 認識するには それらは不可欠です |
24:09 | つまりイメージにも実体があるのでは? 誤ったイメージもあるが 事実もあるように思えます すべてが錯覚ではなく… |
24:21 | つまり あなたは― 我々3人とは全く違うと? |
24:27 | 居る場所も 肉体も違います |
24:30 | そういう意味で違います |
24:32 | 確かに背丈も違います 肌の色も 茶色やら |
24:36 | 黒、白、ピンク、様々です |
24:39 | しかし 他の面においては― 同じ言葉でやりとりし そこには共通点が見られます 身体的レベルでも 酸素、化学物質― 水素原子、酸素原子など 共通点が多々あります |
24:58 | では あなたの意識は我々の意識とは異なりますか? 意識です体の反応などではなく… 体の条件付けではなく… あなたの信念― あなたの恐れ、不安― 絶望 そういったもの全ては? |
25:26 | 私の意識の中身― 信念、欲望などは他の人々も持っています しかし 私が持っている経験― 記憶、欲望の組み合わせは 唯一のものですなぜなら― 様々な要素が入っているからです |
25:46 | 私のも唯一のものですか? |
25:48 | ‐彼のも?‐その通り |
25:50 | 共通しているならもはや唯一のものではありません |
25:56 | それは矛盾してますね返答できません |
26:01 | なぜ?誰もが唯一無二では? |
26:04 | 唯一無二であると同時に |
26:06 | 唯一無二ではないのです でないと意味がなくなります 人は誰しも唯一無二で 独自の経験、環境要因、記憶などを持っています |
26:22 | それは皆に共通してます |
26:24 | ええ けど持ってるものは異なります |
26:28 | ええ あなたは英国育ちで 他の方はアメリカやチリで育ちました 私たちは皆違う経験があり 違う国があり― 景色や山々なども違います |
26:44 | ええ |
26:47 | しかし 物理的な環境の違いや― 言語の違いや― 経験の違いを別にすれば― 基本的に 根本的に 元来― 我々は苦しみ死におびえ 不安を抱き― あれこれ苦痛や葛藤を抱えていて― それは皆同じなのです |
27:17 | それはそうでしょうね |
27:20 | ええ 確かに |
27:22 | つまり 我々の共通点とは― 表面的なことではなく― むしろ根本的なことだと そして共通点のうちでも 悲しみ、苦しみなどは それほど重要ではなく 本当に重要なのはより高い文明を― 築くことだと思います |
27:48 | 違いは形態と中身にあるのでは? 我々の中身は皆違います しかし その形態、構造は恐らく同じでしょう |
27:59 | 同じなのは中身だと思います |
28:03 | 共通の人間性というものが あることは認めますが― それが抽象概念や投影ではなく なぜ実際にあると? |
28:17 | なぜなら世界中を回ってみれば人々が苦しみ― 苦悩し絶望しているのを目にするからです 孤独で 愛情に飢え思いやりに餓えているのを それが基本的な人間の反応であり― 我々の意識の一部なのです |
28:47 | ええ |
28:49 | つまり あなたは私と何も違いません あなたは背が高く生まれた国も違うかもしれません 私は浅黒い肌をしてますしかし川の底は― 川の中身は水です その川はアジアの川でもヨーロッパの川でもなく ただの川です |
29:21 | ある程度はそうなんでしょうが どの程度そうなんでしょう? |
29:26 | 根本的に 完全にです |
29:31 | しかし なぜ人間だけなんです? 全ての人間に共通点がありますが 動物ともまた― 共通点が見られます 多くの共通点が |
29:45 | なぜ人間に留まるんです? |
29:47 | 留まっていません |
29:49 | なぜなら私は… 『共通』という言葉は好みません 我々はそれを全人類の基盤だと感じています 人間と自然や動物などとの関係 そして我々の意識の中身が― 人間性の基盤なのです 愛は英国的でも米国的でもありません 憎しみも同様です 苦痛は苦痛に過ぎません だが我々は苦痛と同化します “これは私の苦痛である”と。 |
30:46 | 人と違う体験をするからでは? |
30:50 | 表現や反応は違ってもそれは基本的に苦痛です ドイツ的でもアジア的でもなく 英国的でもアルゼンチン的でもなく それは人間の葛藤です なぜ我々は自らを切り離すのでしょうか? 英国人、アルゼンチン人、ユダヤ人 アラブ人、ヒンズー教徒、イスラム教徒 わかりますか? 非常にばかげていて部族的です 国家崇拝は部族主義です なぜ終わらせないのでしょうか? |
31:37 | さあ なぜでしょう? |
31:40 | なぜなら…元の問題に戻ってきましたが 国家に自分を重ね合わせているからです それが ある種の強さ、基準、安心を与えてくれます 例えば英国人なら? つまり この分裂が戦争の理由の一つです 経済や社交だけでなく 国家主義は実際には 部族主義であり戦争の原因です 終わらせたほうが合理的ではありませんか? |
32:28 | 国家主義のような話では合理的でしょう 人は国ではありません |
32:35 | そこから話をしましょう しかし ある患者は結婚してると思っていて― 自分の妻であると… もちろん それは彼の妻です |
32:50 | そういう話をしてるのでは? |
32:53 | いえ いえ ゆっくりいきましょう |
32:59 | はい |
33:02 | なぜ より大きなものと自分を同一化したいのでしょう? 国家や神などと… |
33:14 | ‐欠乏感があるからです‐というと? |
33:18 | 不安がある |
33:19 | 不安、欠乏、孤独、分離 私は自分の周りに壁を築いたので― |
33:31 | こういった全てが私を非常に孤独にしています そして その孤独から抜け出すために 同一化するのです神、国家、ムッソリーニと ヒトラーだろうが宗教の師だろうが構いません |
33:52 | では 結婚、仕事、家を持つことも― |
33:56 | すべて同一化です |
33:59 | なぜ我々は何かと同一化したがるのか? いえ 根本的な問題はなぜ所属したがるのか? |
34:10 | ‐所属ですか?‐所属です または『成る』という意味です |
34:21 | つまり 子供の頃からの― 全過程です 私は『成る』ように言われます 司祭から司教に 司教から枢機卿に 枢機卿から教皇に ビジネス界でも同じです 精神世界でも同じです “私はあれに成らなければ” |
34:48 | それで なぜ欠乏感が? |
34:50 | なぜ成りたいのか?『成る』とは何か? |
35:01 | その理由は明らかに 不全感でしょう 不十分な状態です この理由の一つは我々が不完全な世界に住んでいて 人間関係も不完全だからです 様々な理由から満足していません 何かになれば解決できる気が… |
35:24 | つまり『あるがままのもの』から逃避しているのです |
35:30 | しかし『あるがままのもの』が 逃避の理由なのです それに何か問題が… |
35:36 | では 例えば私が暴力的だとします それで非暴力を考え出しました 私はそれになろうとしています その間 私は暴力的なままです つまり私は暴力を免れたことはないのです |
36:00 | でも努力はしています 最後には免れるかも |
36:06 | 免れるのではなく私は理解したいのです 暴力の本質とその意味を いかなる暴力もなしに 人生を送るのは可能か否か |
36:19 | しかしそれはより有効な逃避の手段で 逃避の放棄ではありません あなたが示唆してるのは 通常の逃避では 成功しないので 異なる方法で 非暴力的になろうと… 私は逃避していません |
36:40 | 変わろうとしている? |
36:42 | いいえ 私は暴力的です |
36:45 | 私は暴力の本質を見たいのですどう生じたのかを |
36:50 | 何のために? |
36:51 | 完全に自由になれるか見るためです |
36:55 | それは逃避では? |
36:57 | 何かから自由になろうと… |
36:59 | 逃避ではありません |
37:01 | 『あるがまま』から回避、逃走、逃げることが逃避です しかし“これが私だ 調べてみよう” そう言うならそれは逃避ではありません |
37:16 | なるほど つまり逃避とは― 通常 何かから逃げることです 例えば 刑務所や両親などから けど それらは残存したままです あなたが言っているのは 暴力から逃避して 距離を置くのではなく 暴力を解明、撤廃することです |
37:39 | 解明です |
37:41 | 撤廃ではなく 解明です つまり これは逃避とは異なるわけで 逃げているのではないと |
37:51 | 逃げるというのは…誰もが逃げます |
37:57 | 限られた範囲では有効です |
37:59 | いいえ… いわば逃避してサッカー観戦に行くようなものです 家に帰れば逆戻り 私が見たいのは サッカーではなく暴力とは何か― 完全に暴力から自由になれるかどうかです |
38:24 | 例えば 私がとても悪い社会にいて 他の社会へ亡命するとしたら ある意味 それは逃避です |
38:34 | もちろん |
38:36 | それなら逃避はある程度は有効では? |
38:41 | ある程度の非暴力… ある程度の解放… 私は完全に終止符を打てるか知りたいのです それは逃避ではなく全力をかけることです |
38:56 | しかし できると信じなければ― 全力はかけれません |
39:03 | 私がするのは調査です 私は 人が暴力なしに暮らせることを知っています それは生物学的に極めて珍しいことかもしれませんが ともかく私たち4人で話し合って― 完全に暴力から自由になれるかを確かめるのです 回避、抑圧、超越するのではなく 暴力とは何なのか 暴力とは模範、順応の一端です 違いますか? 肉体的な苦痛のことはさておき… そこには常に心理的な比較があるのです それは苦痛、暴力の一端です 比較せずに暮らせますか? 幼い頃から競わされてきました 自分と誰かを これは善悪の話でなく比較の話です |
40:16 | 自分と他人を比較します |
40:19 | あなたは機転が利き頭も良く― 知名度もあり― 世界中が耳を傾けます 私が叫んでも誰も気にしません 私はあなたの様になりたい つまり常に比較しているのです自分より偉大なものと |
40:42 | だから何かになりたがる |
40:45 | その通り それで比較せずに生きられるのか? |
40:50 | それでは物足りないのでは? |
40:53 | まさか!比較せずに生きるのに? |
40:57 | 例えば私が― |
41:00 | わかりますか?私が鈍感な理由は― 比較するからです ええ わかります |
41:10 | 有能なあなたと自分を比較することによって 私は鈍感になります |
41:17 | しかし比較しなければ私は私です |
41:20 | しかし他人から鈍感だと言われるかも… |
41:25 | なるほど人から言われて私は自問します どういう意味なのか? 彼は私と比較しているのか? わかりますか? 正反対であると |
41:39 | それはじれったいですね誰かと比べられ― 鈍感だと指摘されて “鈍感とはどういう意味?” |
41:53 | 先日 英国である男性にこう言われました “あなたは素晴らしい老人ですが―” “型にはまっておられる” そこで私は― “さあ どうでしょう” 私は自問しました 型にはまっていたくはないので そこで私は非常に慎重に一歩一歩調べて― 『型にはまる』という意味を探って それを観察しました つまり事実を観察するということは― 回避や抑圧とは異なります |
42:45 | つまり あなたは― 比較せず 観察した |
42:50 | はい 型にはまっているのか?私はそれを観察します 私は英語を話します イタリア語― フランス語を話しますが 路面電車のように 心理的に型にはまっているのでしょうか? |
43:16 | 意味を理解していないので… |
43:19 | いえ 型にはまっているのかそれを確かめるんです とても注意深く 敏感に 用心深く |
43:32 | ここで重要なのは言われたことに対して 反発しないことですね |
43:39 | 反発しません真実かもしれませんから |
43:50 | そのためにはそこに自我があっては いけないわけですね |
43:56 | どうでしょう… では そこには― 自分についての学びがありますか? 予定外の話ですが… 自分についての絶え間ない蓄積ではない学びが。 わかりますか? |
44:25 | はい |
44:28 | 私は自分を観察します |
44:31 | そして その観察から何かを学びます その何かは 観察によって― 常に蓄積されますが それは学びでないと思います |
44:44 | ええ それは自分に対する考えです |
44:48 | 自分に対して思っていること― 集積したことです |
44:53 | ええ |
44:57 | 川の流れのようについて行かなければ では元の話に戻りましょう |
45:06 | これも関係があるのでは? そもそもの問題は 無秩序の起源についてですから… |
45:15 | 無秩序が生じる原因は― 他人が私に指摘することが 自己イメージと合わないからです |
45:25 | 相手が正しいかも |
45:27 | ええ 率直に見る必要があります |
45:30 | その通りです |
45:32 | これはどうですか? 誰かに指摘されて こう反応します“確かにその通りだが―” “だから何だ?”と。 それは単なる盲従です |
45:47 | いいえ 事実を受け入れたうえで “構うものか” 何が悪いんです? |
45:55 | 例えばヒンズー教にはまっているなら 戦争に貢献しています |
46:03 | しかし誰もが型にはまっています それが人間の性質では? |
46:10 | ほら まさしくそこです“人間の性質” 疑問に思います それが人間の性質なら もう変えてしまいましょう! |
46:22 | しかしそれが可能だと― どうやって信じたら? 型にはまってないと 信じている人は 己を欺いているのでは? |
46:34 | 己を欺く?では私は自問します 私は自分を欺いているのだろうか? 偽善者になりたくありません |
46:46 | 偽善者ではなく悲観論者かも 偽善者に代わるもの それは悲観論者です |
46:54 | 私はどちらでもありません “私は型にはまっているだろうか?” 一日中 観察します |
47:04 | でも もし結果が“イエス”なら それを受け入れ“構わない”という手もある |
47:14 | それがお望みでしたら どうぞ でも私は望みません |
47:22 | 心理治療に来る患者にも 同様のことが起きています 患者は悩みから解放されることを望んでいて “抜け出したい”と言います その一方 不安になるので 問題を直視するのを嫌がります |
47:43 | なるほど…では 最初の問題に戻りますが― この世は無秩序であり人間も無秩序に陥っていて そのことを話してきました 無秩序から解放された人生を送ることは可能でしょうか? それが根本的な問題です 人生において分裂を生じさせる行為がある限り― 例えば ヒンズー教、アラブ人― 仏教徒、イスラム教徒― 英国人、アルゼンチン人― 対立、戦争が生じます 息子が殺されます何のために? |
48:39 | 仲間や職業などと同一化する限り 苦痛が伴うということですね |
48:46 | その通りです |
48:48 | では 同一化せずに責任を持つことはできますか? |
48:56 | その場合 仕事に行くでしょうか? |
48:59 | しかし妻に対して責任があります 彼女の世話をし彼女を思いやる責任があり― 彼女は夫を思いやります責任とは秩序です しかし我々は孤立することによって 完全に無責任になりました |
49:27 | 我々は 決まりきった型を持つことで 責任問題に対処し― |
49:33 | その中に留まります |
49:40 | 責任とは秩序であるという事実を理解すれば― 家を清潔に保つ責任があります 我々は皆この地球に住んでいます 英国の地球でも フランスやドイツの地球でもありません だが我々は分裂しました それが安全だと思ったからです |
50:14 | 安定と安全があると。 |
50:16 | まったく安全ではありません |
50:21 | よくわからないのですが― 仕事や家族は安全を保障してくれるものでは? |
50:29 | 失うかも |
50:31 | 問題が尽きませんね |
50:32 | 多くの失業者が存在します 英国では300万人です |
50:39 | 仕事がなくても生きられますが 自尊心を持つ必要が… |
50:45 | 自尊心とは? |
50:47 | つまり同一化する場所が どこかに必要なのです |
50:52 | なぜ何かと同一化したいと思う必要が? それはすぐに分離を生みます |
51:04 | 安定を得るためです |
51:08 | 分離が安定をもたらしますか? |
51:12 | 安心感を与えてくれます |
51:15 | 本当にそうですか? 我々は過去5千年間に渡り戦争をしてきました 約5千回もですそれが安定ですか? |
51:34 | いいえ |
51:35 | 一体 我々は… 何が悪いのでしょうか? |
51:41 | では このことを調べてみましょう この問題の原因は― 何かに同一化することです 次から次へと |
51:52 | その通りそれは分離を生み出します |
51:56 | しかし 型にはまっている人物の話では 同一化せずに事実かどうか観察すると あなたは言いました |
52:07 | その通り |
52:08 | つまり同一化されずに 自由に観察できる何かがあるのです |
52:15 | 論点がずれてきています なぜ同一化したいのでしょう? 恐らく 安全を望んでいるからです 安心、保護を その感覚が強さを与えてくれます |
52:37 | 強さ、目的、方針を |
52:40 | 強さをくれます |
52:43 | しかし同一化は錯覚ではありません 動物界を見れば生物学的な事実です シカも鳥もハチも群れを成していて 巣と同一化しています |
52:58 | しかしハチは自殺しません動物は自殺しません |
53:04 | でも他のハチを殺しますよ 自殺はしませんが… |
53:10 | 人間は自殺します |
53:12 | とにかくハチは他のハチと戦います |
53:16 | もちろん知っています |
53:19 | つまり動物界であっても社会生活を営む動物は 群れと同一化します それは我々も同じです |
53:29 | 待ってください 我々は国と同一化します インド― 中国、ドイツ…それは我々に安全をくれますか? |
53:43 | ある程度はくれます |
53:45 | そして家族と同一化することは 責任についてのあらゆる問題と 関係があります 家族と同一化するなら 家族に対して義務感を抱き― 妹が侮辱されていれば駆けつけて 侮辱した奴を脅します |
54:07 | 幸運にも妹はいません |
54:13 | つまり もし自分の家族を守るなら― 家族への侮辱は― 自分への侮辱です |
54:24 | もちろん |
54:25 | そこには相互義務があり 私が病気なら 家族が世話をし 警察に逮捕されても 救ってくれます 安全を与えてくれます |
54:37 | 確かに |
54:39 | だから同一化するのでは? |
54:41 | しかし 家族からさらに地域へと拡大して 地域から国家となると それは分裂への大きな過程です 英国人、ドイツ人…そしてお互いに争います まったく本当にばからしい! |
55:04 | いえ そんなことは… ある程度は有効で… それは無益な殺し合いです |
55:14 | まだ殺し合ってはいませんし かつてないほど人間がいることから その方法は 殺し合いとは 無縁という段階まで やってきました 実際にかつてない程の人口を抱えてます |
55:33 | だから戦争をして一掃しろと? |
55:37 | まさか ともかく有効である局面があり ある程度の安全もある |
55:46 | ええ あるレベルにおいて同一化は― ある程度 重要です しかし高いレベルでは それは危険なことなのです 皆が言うように 兄弟がいれば世話を焼きますが… |
56:08 | 次第に拡大するので 境界線が難しいですね |
56:13 | ‐その通りです‐足を滑らせます |
56:16 | だから反対しているのです |
56:19 | では どこで線を引きますか? 兄弟がいれば 同族がいて 一族や階級があります |
56:26 | そうです!拡大して! そして“私はアルゼンチン人だ” “英国人だ、フランス人だ”と言って 経済的に 社会的に 文化的に殺し合うのです 非常にばかげています! |
56:44 | では どこに一線を? もし国民国家が間違いなら 部族、階級、家族に対して 矛盾が生じます 我々は人間として― 世界に責任があります 人間ですから そして世界ではひどい分裂が起きています 私はヒンズー教徒にも キリスト教徒にも仏教徒にもなりません 多くの人がそうなれば 何かが始まるはずです |
57:26 | つまり問題が起きるのは 自衛の方法を間違えて 同一化するからだと? |
57:35 | ええ それは分離です そこに安全はありません 故に無秩序なのです |